従業員の解雇手続きについて弁護士が解説

従業員と話し合いをしてもどうしても合意の退職とならないような場合には、最終手段として解雇の手続きを取ることになります。

しかし、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効となります(労働契約法16条)

たとえば、労働者の能力不足あるいは適格性の不足、労働者の規律違反、経営上の必要性に基づく理由、ユニオンショップ協定に基づく理由などがあげられます。

また、正当な事由以外にも、適正な手続きを取らない解雇は、最悪の場合、労働審判や裁判で無効となり、慰謝料の支払いを命じられたり、その間の給与を負担することになります。

では、法律に乗っ取って適法に解雇をするにはどのような手順を踏む必要があるのでしょうか。以下順に見ていきます。

 

1.就業規則を整える

「退職に関する事項」は、就業規則の必要的記載事項となっています。「退職」には、解雇に関することも含みます(労働基準法89条3号)。したがって、どのような場合に解雇されうるのか、予め就業規則に記載しておく必要があります。

解雇無効が労働審判、裁判などで争われるときも、必ず、就業規則に解雇事由が書いてあるか、本件がそれにあたるのか、裁判官や弁護士はチェックします。従って、後々トラブルになることを想定して、就業規則をしっかりと作りこんでおく事が非常に重要です。

 

2.解雇の正当事由を確認

当該労働者が、就業規則に記載された解雇事由に該当するのかを確認する必要があります。就業規則のどの要件に当てはまるのか分からない場合には、事前に弁護士(出来れば顧問の弁護士)に相談するのが得策です。この間口を間違うと、その後の対応に影響が出てきます。

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3.解雇の裏付けとなる証拠を日ごろから集める

業務上の不手際、就業規則違反があった場合に、当該従業員に顛末書・始末書を書いてもらう。会社から当該従業員に警告書を出すなどの、解雇の正当性を裏付ける証拠を日ごろから集める必要があります。

その際、2.で記載されている解雇事由を意識した証拠集めが必要になります。この点も顧問弁護士に相談しながら行うのが望ましいです。

 

4.解雇禁止期間に当たらないかチェック

下記の期間は解雇はできません。解雇しようとする従業員が下記期間に当たらないかチェックしてください。

 業務上負傷し又は疾病にかかり療養のために休養する期間及びその後30日間
 産前産後休業期間及びその後30日間(労働基準法19条1項)

 

5.解雇事由が法律上許されないものでないかチェック

下記の事由での解雇は法律上許されないものとされています。下記に当たらないかチェックしてください。

  • 業務上の病気やけがによって休業する期間及びその後30日中の解雇(労働基準法19条1項)産前産後休暇期間及びその後30日間中の解雇(同上)
  • 国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇(労働基準法3条)
  • 労働組合員であること、労働組合に加入したり結成しようとしたこと理由とする解雇(労働基準法7条1号)
  • 女性の婚姻・妊娠・出産・産前産後休業を理由とする解雇(男女雇用機会均等法6条4号、9条)
  • 育児・介護休業の申出をしたり、育児・介護休業をしたことを理由とする解雇(育児休業法10条、16条)

なども、無効となります。

 

6.30日前予告、30日分の解雇手当

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくともその30日前には、その予告をしなければなりません。

いつの時点で解雇予告をしたのかあとで分かるように、できるだけ書面などで証拠を残す必要があります。

30日前に予告をしない場合には、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。

1.2を足して30日分あることが必要となります。(労働基準法20条)

なお、解雇予告が不要な場合(天災その他やむをえない事由のために事業の継続が不可能となった場合など)、労働基準監督署長の除外認定が受けられた場合においては、解雇予告なしの解雇も有効となります。

なお、下記の場合には、解雇予告が不要となります。

  • 天災事変その他のやむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合
  • 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合(ただし、上記(1)、(2)の場合には、行政官庁の認定が必要)
  • 被解雇者が日々雇い入れられる者であること
  • 被解雇者が2ヶ月以内の期間を定めて使用される者
  • 季節的に4ヶ月以内の移管を定めて使用されるもの
  • 試用期間中の者

 

解雇の種類

解雇には、普通解雇(労働者側の事情に基づく解雇)、整理解雇(企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇)、懲戒解雇(社内の秩序を著しく乱した労働者に対するペナルティとして行う解雇)などがあります。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効となります(労働契約法16条)。

 

1.普通解雇

普通解雇とは、労働者側の事情に基づく解雇で、労働者の能力不足あるいは適格性の不足、労働者の規律違反などの理由による解雇があげられます。

 

(1)普通解雇における客観的合理的理由

① 能力不足、成績不良、適格性の欠如
 能力不足、成績不良、適格性の欠如は、一般に解雇の客観的合理的理由になりますが、単に人事考課が低いといっただけでは、解雇理由にはなりません。

  • 労働者の能力不足や規律違反の程度が企業の業務遂行・秩序維持に重大な影響を及ぼすものであるかどうか
  • 労働者に改善の機会を与えたのか、与えた結果改善の見込みがなかったのか
  • 配置転換などの人事上の措置によって改善されるのか

といったことが重要になります。

 労働審判を申し立てられた場合、①については、企業の業務遂行に重大な支障を及ぼしていることを「具体的な事実」を述べて主張・立証する必要があります。

 また、②については、書面による注意などの実績、解雇よりも軽い懲戒処分を前置した実績などが必要となります。

 ③についても検討する必要があります。

 

② 規律違反・職務懈怠
 職場秩序に反する非違行為や、職務規律違反なども解雇の客観的合理的理由となります。

 

(2)社会的相当性

 合理的な解雇理由が備わっていても、裁判所は、当該労働者を解雇することが過酷ではないのか、観点から審査を行っています。

 

2.懲戒解雇

懲戒解雇とは、社内の秩序を著しく乱した労働者に対するペナルティとして行う解雇のことで、ペナルティの中では最も重い処分です。

懲戒解雇については、労働契約法16条(解雇についての客観的に合理的な理由、社会通念上相当性)の要件を満たす必要があるほか、労働契約法15条(使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らしての、客観的合理的な理由、社会通念上相当性)の要件を満たす必要があります。

 

① 就業規則に懲戒処分の事由及び種類が定められていること

 懲戒解雇が有効とされるためには、「客観的合理的な理由」がなければなりません。具体的には、当該労働者の行為が就業規則上の懲戒事由・解雇事由の双方に該当する必要があります。

 

② 相当性

 相当性判断においては、同じ規定に同じ程度に違反した場合には、これに対する懲戒は同じ程度であるという公平性の原則の要請があります。

 

したがって、懲戒解雇にするためには、同様の事例の先例を踏まえる必要があります。また、過去には黙認していたり解雇よりも軽い懲戒処分にしていた行為に対して懲戒処分・懲戒解雇を行うためには、事前の十分な警告や改善の機会の付与が必要です。

 

3.整理解雇

整理解雇は、労働者に帰責事由はなく、使用者側の都合による解雇です。したがって、客観的合理的理由(労働契約法16条)の判断は、整理解雇の4要件に即して考えられます。

整理解雇の4要件とは、

  • 人員削減の必要性
  • 整理解雇回避努力の履践
  • 人選の合理性
  • 手続きの妥当性

となります。

解雇について揉めて労働審判などを申し立てられた場合にも備えて下記のような対策を取る必要があります。

 

① 人員整理の必要性

 財務諸表による分析は必須です。

 

② 解雇回避努力

 人員整理の必要性があっても、事業主は残業規制、中途採用中止、配転・出向新規採用停止、有期契約労働者の雇止め、希望退職者募集などの解雇を回避する手段があり得ます。こういった解雇回避措置を試みることなくされた解雇は、権利濫用と評価されることがあります。整理解雇は、最後の手段であるべきだからです。

このような会社側の対応はNG!

「解雇してから間もない期間に大量の新規採用をしている」


③ 人選の合理性の担保

 解雇対象労働者の選定は、客観的合理的な基準により、公正に行われる必要があります。

このような会社側の対応はNG!

「妊娠中の従業員、育休取得中の従業員を解雇対象とするなど」

 

④ 手続きの妥当性

 労働者・労働組合などにきちんと、説明を行うことが必要になります。その際には経営資料などを見せ、可能であれば、解雇が必要となった理由を説明できるようにした方が望ましいです。

 ※ニライ総合法律事務所では、経営者のために、解雇のための説明義務の資料作り、説明に際しての立ち合いなどについても、請け負っています。

このような対応はNG!

「解雇の理由を従業員に説明しない」

 

解雇の手続きについてのまとめ

以上みてきたとおり、適法な解雇については非常にその要件が厳しく、また適正な手続きを踏む必要があります。

まずは、従業員と話し合い、合意のもとに退職してもらう手段を考え、それでも従業員が納得いかないような場合に最終手段として解雇手続きを取るべきです。

また、解雇の手続きを取るとしても、法律の専門家に相談し訴訟リスクを最大限回避する形での解雇手続きを踏む事をお勧めします。

ニライ総合法律事務所は、着手金無料、顧問料の範囲でかかる退職手続きについてのご相談とアドバイス、書類作成を受け付けております。

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    Last Updated on 2024年1月18日 by roudou-okinawa

    この記事の執筆者
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