誹謗中傷を行う問題従業員について
本ページでは、企業法務に強い弁護士が、企業に対する誹謗中傷を行う問題従業員への対応方法について解説していきます。
SNSや、インターネットの発展によって、従業員がSNSやブログなどで、企業や上司に対する批判や誹謗中傷を行うことが簡単にできてしまうようになりました。気軽に書き込めてしまうため、刈る気持ちで誹謗中傷を行う人が後を絶ちません。
すぐに情報が広まってしまう世の中となりましたから、社内で話題となるだけでなく、企業に対して誹謗中傷をされてしまうと、取引先や顧客にも知られてしまうことになりかねません。
インターネット上でのいわゆる「炎上」がネットニュースで取り上げられることも多くなってきています。
「炎上」とは、「特定の対象に対して批判が殺到し、収まりがつかなさそうな状態」、「特定の話題に関する議論の盛り上がり方が尋常ではなく、多くのブログや掲示板などでバッシングが行われる」状態をいいます。
参考資料:総務省 情報通信白書 より
炎上により、誹謗中傷の書き込みが拡散されてしまうことで、沢山の人の目に触れられてしまうこととなります。更に、気軽に行われた書き込みでも、一度ネット上の話題になってしまうと、消し去ることは難しく、デジタルタトゥーとして残り続けてしまいます。
誹謗中傷により、こういった「炎上」が起こってしまうと、不特定多数から批判がなされ、企業に悪いイメージが付いてしまう他、潜在的顧客や取引先を失うことにもなりかねません。
また、企業の評判だけでなく、職場環境やほかの従業員のモチベーションを悪化させる可能性もあります。
それでは、企業は、どのような誹謗中傷に対してどのような対応をすることができるのでしょうか。
また、その企業の評判や名誉を傷つけるような悪口やデマを広めたのが、従業員であった場合、どのような対処をとることができるのでしょうか。
そもそも誹謗中傷とはどういう法律上の扱いになるのかという点を含め、具体例を交えながら見ていきたいと思います。
以下では、
・誹謗中傷でも、「表現の自由」によって保護されてしまわないか
・誹謗中傷に対して取れる法律上の対処法
・企業への誹謗中傷を理由とする懲戒処分は行えるのか
・そもそもどういったものが誹謗中傷にあたるのか
・誹謗中傷を理由とする懲戒処分の有効性
といった点について解説していきます。
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どういったものが誹謗中傷にあたるか
それでは、まずどういった内容の書き込みが誹謗中傷にあたるのでしょうか。
誹謗中傷と、批判の違いを厳密に切り分けることは難しいのですが、
・根拠のない嘘やデマ、不満や悪口を書く場合
・人格否定や人格を侮辱/差別するような内容を書く場合
には誹謗中傷にあたるといえます。
具体的に見ていきましょう
(1)企業や、他の従業員に対する虚偽の悪口・デマ
・実際には、パワーハラスメントをされていないにも関わらず、△社の○○氏からパワハラを受けたなどと主張する
・実際には不倫関係などがないのに、△社の○○部部長は、同じ部の××と不倫関係にあって奥さんと離婚調停中である、などいう内容をブログに書き込む
・△社の取締役は、暴力団関係者であるなどと虚偽の話を掲示板に書き込む
・飲食店で買ったものに異物が混入していたなどとして嘘の写真をネットに上げる
(2)人格否定・侮辱・差別的な書き込み
・△社の◯◯は、どうしようもないクズでバカで仕事ができない無能である、などと言った相手の人格を否定するような書き込みをする
・上司の◯◯は、低学歴のくせに偉そうにしている、といった相手の経歴を侮辱するような表現を使う
・取引先の××氏は、××宗教に入っているから頭がおかしい、などという相手の思想・信条を差別するような内容をSNSにあげる
こういった内容ですと、正当な批判とはいえず、誹謗中傷に当たります。
以下で説明する民事上、刑事上の責任追及や、懲戒処分の対象となるといえるでしょう。
表現の自由と誹謗中傷の関係
誹謗中傷でも、表現であることに変わりはありません。
ここで、日本では、憲法で表現の自由が保障されています。
日本国憲法第21条が、「言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と規定しているためです。
この表現の自由は、報道機関やメディアだけでなく、一般市民に対しても適用されます。
そのため、憲法においては、個人が自由に意見や情報を表現し、伝える権利が保障されているのです。
法律上の責任追及はできるか
(1) 刑事上の責任
しかし、一方で、誹謗中傷や名誉棄損は、不当に他者の評判や名誉を傷つける行為です。
そのため、刑法上でも規制されており、罰則が置かれています(刑法230条1条ほか)
例えば、名誉棄損罪にあたると、3年以下の懲役・禁錮、または50万円以下の罰金が下されることになります。
なお、刑法230条1項では、名誉毀損罪の被害者を「人」と規定しているのですが、ここの「人」には法人も含まれます(大審院大正15年3月24日判決)。
なぜなら、名誉毀損罪の保護法益(保護している利益)は、社会からの外部的な評価だからです。
法人も個人と変わることなく、社会の外部的評価が低下した場合には、名誉棄損罪が成立するといえるのです。
そのため、悪質な誹謗中傷や名誉棄損がなされた場合には、企業が刑事告訴することも可能となっています。
もっとも、この際には、被害者からの刑事告訴が必要となってきます。
なぜなら、刑法232条で、
「告訴がなければ公訴を提起することができない。」
と定められているためです。
さらに、期間制限が設けられていますので、この期間内に告訴を行う必要が出てきます。
刑法235条では、
「告訴は、犯人を知った日から6箇月を経過したときは、これをすることができない」
と定められています。
そのため、刑事告訴期間である6ヶ月以内に捜査機関にたいして告訴を行うことが大切となってきます。
悪質な書き込みを発見した警察が自主的に捜査を行ってくれるものではありませんので注意が必要です。
(2) 民事上の責任
ア 損害賠償請求
また、民法上でも、名誉棄損は、他者の評判や信用を傷つける不法行為(民法709条)とされています。
第709条は、以下のように定めています。
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
簡単に要件を解説しますと、
①「故意又は過失」
分かりやすく説明すると、わざと又はうっかり、という意味です。
自分の意思で書き込みをすることはわざとである場合が多いと言えます。
②「他人の権利または法律上保護される権利」の「侵害」
名誉の侵害は、人格的利益・人格権への侵害だと解釈されています。
具体的には、「人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価」であると、判例では示されています。
そのため、企業の社会的評価を低下させるような書き込みがある場合は、この要件を満たすこととなります。
③「これによって生じた損害を賠償する」
書き込みをされたことによって、損害が発生し、この損害が書き込みと法律上の因果関係があることが必要です。
名誉棄損の多くの場合は、慰謝料の損害賠償請求であることが多いです。
書き込みをされた側は、不当な書き込みをされたことで、精神的苦痛を受けたと主張します。
つまり、精神的損害が発生したと主張するのです。
また、書き込みによって、訴訟提起を余儀なくされた場合、その弁護士費用の一部も因果関係がある損害だとして支払いを請求することもできます。
慰謝料の「損害」の額は、書き込みの態様や、個々の裁判によっても変わるのですが、一般的には、100万円~200万円程度とされることが多いです。
執拗な書き込みであったり、書き込みをされた側が犯罪行為に関与していると受け取られるような書き込みであったりするとより高額な認定がなされることが多くなります。
以上のように、書き込みをされた側・傷つけられた側は、相手に対して損害賠償請求をもとめることができるのです。
イ 謝罪広告の掲載
損害賠償請求の他にも、名誉棄損をしたものにたいして、「名誉を回復するのに適切な処分」を求めることもできます(民法723条)。
新聞などの媒体に謝罪広告を掲載してもらうことが考えられます。
但し、これの代表例は、新聞や雑誌が名誉棄損をした場合であり、従業員によるネット上の書き込みのケースでは、あまり想定されていません。
ウ まとめ
投稿や書き込みによって、企業や個人の名誉を不当に傷つけていることが証明されれば、刑事上や民事上で責任を問うことができます。
刑事的処罰を求めたり、金銭的賠償を求めたりすることができるのです。
企業への誹謗中傷は懲戒処分の対象となるのか
結論から言うと、企業への誹謗中傷によって、従業員に対する懲戒処分を行うことができるときがあります。
なお、誹謗中傷ではなく、正当な批判であるときなどは、懲戒処分を行い得ない場合もあります。
例えば、
・実際にパワーハラスメントを受けており、その音声なども持っている状態で、「△社の××氏からパワハラを受けた」などという書き込みをする
・実際に社内で違法行為がなされている時に、その行為を摘示する内容をSNSに上げる
などです。
こういったときには、その書き込みは違法な誹謗中傷とはいえない場合があります。
書き込みの内容が誹謗中傷に当たるかどうかわからない、といった状況では懲戒処分を行うべきではありません。まずは、専門家に一度相談することをおすすめします。
実際に誹謗中傷をされた際にはどのような内容の懲戒処分が行えるのでしょうか。
懲戒処分の内容は、戒告・けん責といったものから、出勤停止や懲戒解雇など様々な重さのものがあるのが一般的です。
どういった処分が適切かという判断を間違えてしまうと、トラブルに発展するケースがあります。
懲戒処分の有効要件について
まず一般的な懲戒処分の有効要件を満たす必要があります(労働契約法15条ほか)。
具体的には以下の4つの要件を満たす場合に、有効な懲戒処分を行うことができるのです。
①就業規則に懲戒規定が明記されており、その就業規則が従業員に周知されていること
具体的にどういったことを行えば懲戒処分該当事由にあたるのか、
どういった種類の懲戒処分があるのか
といった点について就業規則に記載しておく必要があります。
これは、事後的に追加することはできませんので、予め網羅的に記載をしておくことが重要となります。
また、就業規則は、従業員に対して周知しておく必要があります(労基法106条1項)。
就業規則を従業員に交付することや、見やすい場所に掲示しておくことなどの方法を取ることが必要です(労基規則52条の2)。
②懲戒事由該当性
就業規則の懲戒事由に定められていることを実際に従業員がしている必要があります。
就業規則の記載は抽象的であることが多いので、この懲戒事由に該当しているかどうかが争われることも多くあります。
企業側に有利なように解釈するのではなく、労働者側に有利に解釈する必要がある上、裁判になると、企業の側が、「労働者が懲戒事由に該当する行為を行ったこと」を証明しなければなりません。
③懲戒処分が社会的に相当であること
社会の一般常識的に考え、その懲戒処分が重すぎないこと、も要件となります。
しかし、どの程度であれば重すぎないのか、何が相当なのか、ということについての法律上の定めはありません。
従業員が行った行為の性質や、態様、過去の処分歴や動機など、様々な事情を考慮して処分の重さを決める必要があります。
④適切な手続きで行われていること
最後に、懲戒処分を行うまでに、適正な手続きを行っていること、も有効な要件となります。
具体的には、就業規則で
”懲戒処分を行う際には処分対象者に対し、弁明の機会を与えなければならない”
という記載がある場合は、実際に弁明の機会を与えなければなりません。
弁明の機会を与える、とは、従業員の考えや動機、言い分を聞くような機会を設けることです。
この機会を与えなかった/実質的に与えられていなかったと言える場合には、懲戒処分は無効となってしまいます。
また、就業規則で弁明の機会について規定を設けていなくても、手続の適正性を印象づけるために弁明の機会を与えておくことが望ましいといえるでしょう。
以上の4要件が、一般的な懲戒処分の有効要件となります。
従業員の誹謗中傷を理由とする懲戒処分も、上記の要件を満たしている必要があります。
誹謗中傷による懲戒処分の有効案件
誹謗中傷の場合には、4要件に加え、以下の要件を満たしている必要があります。
⑤書き込みが、企業の名誉や評判を傷つけており、正当な批判に当たらないこと
上で解説した通り、正当な批判をしたことで懲戒処分を行うことはできません。
正当で違法ではない批判は、民法上の不法行為や、刑法上の名誉毀損などにもあたりません(刑法230条の2)。
そのため、正当な書き込みがなされたことによって、企業の名誉や評判が傷ついたとしても、懲戒処分をすることができません。
あくまで、違法な書き込み、誹謗中傷がなされたときにだけ懲戒処分ができることに気をつけなければなりません。
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誹謗中傷を理由とする懲戒処分をするためには、様々な要件をクリアする必要があります。
・その書き込みが本当に誹謗中傷に当たるのか、すなわち、正当な批判に当たらないと言えるのか
・書き込みを行ったのは本当にその従業員であると特定できるのか
・就業規則に懲戒規定が記載されているか
・就業規則は正しく周知されているか
・就業規則上に挙げられている懲戒事由に該当するような書き込みであったか
・書き込みの内容や影響に照らして、懲戒処分は適当か
・適正な手続きが取られているか
といった条件を検討する必要があります。
特に、誹謗中傷に当たるのか、や、懲戒事由に該当するか、処分が重すぎるのではないか、といった点は、判断が難しいものとなります。
不当な懲戒処分をしてしまうと従業員とトラブルに発展してしまうことになりますし、企業側に慰謝料請求がされてしまうこともあります。
そのため、誹謗中傷に悩んでいる経営者の方は、一度専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
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Last Updated on 2024年10月22日 by roudou-okinawa
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