運送業における雇用契約書の留意点ついて弁護士が解説

運送業における雇用契約書の留意点ついて弁護士が解説

このページでは、企業法務に強い弁護士が、運送業における雇用契約書の留意点ついて解説します。

雇用契約書はどの企業でも大切なものですが、特に運送業を営む会社が注意するべき点はあるのでしょうか。

あるとすれば、どういったものでしょうか。

雇用契約書を流用するリスクも含めて解説していきますので、運送業を営む経営者の方々はぜひご一読ください。

1 雇用契約書とは

そもそも、雇用契約書とは、企業が従業員を雇入れる時に作成する契約書です。

契約書を作成することで、従業員と企業の間で合意された条件を明確に示すことができます。

雇用に関連する条件は、給与・報酬、勤務時間、休暇・休業、福利厚生、昇進・昇給条件など、様々です。

雇用契約書を作成しておくことで、双方の権利や義務を明確化し、紛争やトラブルを予防することができます。

また、雇用する際には、企業は、使用者は、「労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」[大翁1] という法律の規定があります(労働基準法第15条第1項)。

この、明示するべき条件も、労働基準法施行規則第5条第1項で具体的に列挙されています。

列挙されている項目は、全部で14項目ありますが、そのうち、書面による交付が義務付けられているものもあります。

例えば、

・労働契約の期間に関する事項

・就業の場所及び従業すべき業務に関する事項

・退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

などです。

雇用契約書を作っておかなければ、この「明示」や「書面による交付」がなかったと、従業員から主張される場合があります。

逆に言えば、雇用契約書を作成しておくことで、法律上の義務を果たすことができ、更にそのほかの条件についても明確な取り決めを行うことができるのです。

雇用契約書の作成は、企業と従業員の雇用関係が始まる第一歩のところにあり、今後の関係を決めるものとなりますので、非常に大切な文書といえるでしょう。

2 運送業における雇用契約書の留意点

では、運送業における雇用契約書の留意点には、どういったものがあるのでしょうか。

ここでまず、運送業の特徴を見ていきたいと思います。

他の企業と比べ、運送業には以下のような特色があります。

・運転や荷物の配達などの業務に多くの時間がかかるため、労働時間が長くなりやすい側面があること。

・季節や需要に応じて勤務時間が変動することがあること。

・深夜や早朝に配達を行う場合など、不規則な勤務時間での就業もあること。

・安全運転や交通ルールの遵守のための健康管理が必要であること。

・同一企業の中に、トラック運転手やバス運転者など、異なる職種の人が存在していること。

9時5時で勤務時間が定めることができる職種と大きく異なるのが、勤務時間の長さ・不規則性であると言えるでしょう。

更に、交通事故を予防するために労働者自身の健康管理が必須となることも、オフィスワークとは異なる点です。

こういった特殊な事情を受けて、運送業界に対しては、厚生労働省が「改善基準告示」[大翁2] という残業時間に対する制限規定が設けられています。

この規定自体は従前からありましたが、令和4年により労働者を保護する形で改正され、令和6年の4月1日から適用されているものです。

正式名称は、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準というものです。

参照リンク:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/roudoujouken05/index.html

具体的には、トラック運転手に関しては、

・従前は、一カ月当たり293時間の拘束時間が[大翁3] 、改正後は原則284時間までと変更となった

 ※最大拘束時間も320時間から310時間へ

・1年間の拘束時間が、3516時間から、原則3300時間と改められた

 ※最大でも3400時間まで

・1日の休息時間が従前は継続8時間であったが、改正後は、継続11時間が基本となった

 ※少なくとも9時間は与えなければならない

といった変更点があります。

この告示に違反した場合、行政処分が下される可能性があります。

例えば、事業所への立ち入りや、ある程度の期間車両の使用を禁止する、といったものから、事業自体の停止、といった非常に重たいものまでがあります。

こういった処分を避けるためにも、運送業者が、雇用契約書を作成する場合は、労働基準法をはじめとする労働関連法のみならず、この告示に違反していないかどうかも注意する必要があるのです。

そのため、労働時間や休暇制度について明確に定める必要があるといえるでしょう。

労働契約書には、週休や有給休暇の取得方法などに加え、運転時間の制限や休憩時間の取り方についての詳細な規程を置くのがベターだと言えます。

3 雇用契約書を流用するリスク

運送業者で時折見かけるのが、トラック運転手・バス運転手・タクシー運転手など、異なる車種を運転している従業員がいるのに、雇用契約書の内容が同一となってしまっている、というものです。

こういった雇用契約書の流用にはリスクがあるため、避けなければなりません。

例えば、労働時間については、上で説明をした改善基準告示でそれぞれが運転する車種によって、拘束時間や休息時間の定めについて異なる規定が設けられています。

月当たりの拘束時間をみてみると、トラック運転手は、原則月284時間である一方、バス運転手に対しては、月281時間とされています。バス運転手の方は、月4時間短く設定しなければなりません。

同様に、一年あたりの拘束時間の上限も異なっています。

そのため、同一内容の雇用契約書を流用してしまうと、思わぬトラブルにつながることがあります。

トラック運転手については、法律・告示違反が無いものの、バス運転手については違反が発生してしまっている、というものです。

こういったリスクを回避するために、たとえ運転手同士のものであっても、雇用契約は流用するべきではありません。

また、正社員である運転手の雇用契約書を、契約社員・臨時雇用の運転手の雇用契約書に流用するのも避けるべきです。

契約社員や臨時雇用は、期間の定めがある労働者(労働契約法第17条)にあたる場合がほとんどです。いわゆる、有期雇用という雇用体系となるのです。

一方、正社員は、期間の定めのない労働者、無期雇用の労働者となります。

ここで、有期雇用の労働者に対して雇用契約書で明示するべき条件は、無期雇用の労働者に対して明示するべき項目よりも多く設けられています。

そのため、正社員の契約書をそのまま使ってしまうと、契約社員・臨時雇用の従業員に対して本来明示するべき条件を明示できていないことになってしまう可能性があります。

法的リスクを発生させないためにも、個々の労働者の実情に応じた雇用契約書を作成することが大切です。

4 雇用契約書の作成・チェックは弁護士にご相談ください

雇用契約書は、企業と従業員との間の重要なルールを決める文書です。

しかし、その契約書が労働法のルールに違反している場合、無効とされてしまう可能性があります。

労働法は、労働者の権利を保護するための法律です。

そこで、労働基準法で定められている労働条件を下回って労働者に不利な条件を定めた場合は無効とされてしまうのです

例えば、法定労働時間や有給休暇など、労働者に与えられている権利を制限する内容が含まれている場合です。

雇用契約書を作成する際には、労働法を厳密に遵守することが重要となってきます。

一方で、労働法を遵守した雇用契約書は、企業側にとって強力な盾となります。

労働法に基づき、適切に作成された契約書は、紛争やトラブルを未然に防ぐことができます。従業員からの不当な要求やクレームにも対応しやすくなるのです。

また、明確な文書を取り交わすことで、従業員との信頼関係を築くことにも寄与するのです。

そのため、雇用契約書の作成やチェックには、労働法に詳しい弁護士のアドバイスが有用だといえます。

運送業独自の実態や慣習を理解し、法律的に適切な雇用契約書の作成の依頼をすることができます。

労働法と一言にまとめられても、労働基準法や、労働契約法など様々な法律が含まれています。

更に、今回解説した、改善基準告示といったような業界に独自に適用される規定もあります。

様々な法律が入り組んでいるのですが、これを読み解いた契約書を作成することで、紛争リスク・訴訟リスクを下げることができるのです。

弁護士法人ニライ総合法律事務所の弁護士は、企業法務を数多く取り扱っており、労働法についても詳しい知見を有しています。企業の経営者の方々にとって、適切なアドバイスを提供できると自負しています。

労働法を遵守した雇用契約書を作成については、ぜひ専門家のサポートを活用してください。

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Last Updated on 2024年4月9日 by roudou-okinawa

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