従業員の喧嘩による負傷と会社の責任

悪いのは加害従業員なのに・・・

 

1. 従業員同士の喧嘩で負傷した場合

 従業員が勤務時間中に別の従業員から暴行を受け、それによって負傷した場合、加害従業員が被害従業員に賠償しなければならないのは当然です。ただし、加害従業員に賠償できるだけの資力がないことは往々にしてあります。

 当該傷害が業務上の災害と認められた場合には、労働災害補償保険から療養補償、休業補償、遺族補償等の給付を受けることができます。しかし、労災保険からの補償は、被害労働者に生じた損害の全額が賄われるわけではありません。たとえば休業損害は、休業4日目から支給され、しかも、補償されるのは賃金の8割です。後遺障害や死亡の遺失利益も十分ではなく、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料などは支払われません。したがって、労災保険がおりていても、使用者に不法行為や安全配慮義務違反などの過失があれば、労災保険給付ではカバーされない損害(入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、後遺障害遺失利益や休業損害など)について、会社は賠償責任を負うことがあります(労働基準法84条1項、2項反対解釈)。

 

2.会社の責任 ⑴使用者責任

 暴力行為が従業員同士の行為であっても、加害従業員が「事業の執行について」暴行が行われたと認められれば、会社は被害労働者に対し損害賠償責任を負わなければなりません(民法第715条)。「事業の執行について」とは、会社の事業の執行を契機として、これと密接に関連する場合と言われています。(最高裁昭和44年11月18日民集23巻11号2079頁)。)

 暴行が事業の執行を契機として行われたか否かについて、裁判例では「時間的場所的な密接関連性」と「暴行が生じた原因と事業執行行為との密接関連性」で判断されています。たとえば、職場内で勤務時間中の暴行であっても、暴行が事業とは関係のない個人的な私怨が直接的な原因であれば、使用者責任は否定されがちですが(大阪地裁平成23年9月5日 ヤマダ電機事件など)、暴行の時間・場所が勤務時間内に職場内でおこったものであったり暴行の動機が、例えば仕事上のミスであったりするなど、仕事に関するものである場合には、使用者責任が認められる可能性が高いです。(東京地裁平成17年10月4日 ヨドバシカメラ事件)

 

3.会社の責任 ⑵安全配慮義務違反

 使用者は、従業員の生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする安全配慮義務を負うべきとされています(労働契約法第5条)。他の従業員が暴行をするような職場は、生命・身体の安全を確保しつつ労働をすることができないので、安全配慮義務違反を主張されて、損害賠償を請求される可能性があります。

 しかし、従業員間の加害行為においては、当然に使用者の安全配慮義務違反が認められるものではありません。企業は、一般的な従業員間の暴力抑止義務を負っているわけではないとされているからです(神戸地裁姫路支部平23.3.11 佃運輸事件)

 従業員間の暴行について、企業の安全配慮義務違反が成立するには、予見可能性と結果回避可能性が必要です。たとえば、暴行以前から,被害従業員と加害従業員が顔を合わせれば暴力沙汰になっていたか,または,そうなりそうであったという状況が存在したのであれば,会社にとって本件暴行の発生は予見可能であるといえます。予見可能であれば、会社は、加害従業員と被害従業員の接触を避けるような人員配置を行う等の結果回避義務を負うことになります。しかし、突発的におきた一回限りのケンカ行為が問題になっている場合には、予見可能とはいえず、安全配慮義務違反が認められない可能性が高いです。

Last Updated on 2023年7月18日 by roudou-okinawa

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